じゃあブルーレイの勝ちなのか

 東芝がどうやらHD DVDをやめる意向を固めたようだ。

 [http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/15/news077.html:title=東芝、間もなくHD DVDから撤退か]

 それにしても、2008 International CESにてワーナーがブルーレイへの一本化を表明してからここに至るまで、わずか1カ月そこそこでここまで進んでしまうとは。まさに東芝にとっては悪夢の1カ月だろう。こういう、雪崩を打って一つの方向へ流れが作られていく様は、いまのアメリカ大統領選挙における民主党バラク・オバマ候補の勢いによく似ている。アメリカン・ウェイというやつなのだろうか。
 しかし、話の展開が急なのと、主戦場がハリウッドである点で、特に日本の消費者にとっては正直、空中戦を見ているような違和感がある。よく、かつてのVHS対ベータの規格争いにたとえられるが、ある程度ビデオデッキが普及した中で展開された前回とは違い、ブルーレイも普及しているかというと、PS3がある家庭はそこそこあろうが、レコーダーがバカ売れしているとは言い難い。HD DVDに至っては、機器を持っているという人間は私の周りにいない(うちにはXBOX360の外付けのやつがあるが)。決してハイビジョンディスクが身近であるとは言えない。一般メディアでは未だに「次世代」の形容詞がとれていないのが何よりの証だ。
 つまり、ブルーレイとて、消費者の支持を得てHD DVDに打ち勝ったわけではなく、ビジネス界における力関係によって生まれた結果でしかないのである。
 確かに、ブルーレイには記録容量などの技術的な面でHD DVDより優位な点は多い。しかし、HD DVDには、ネットとの親和性の高さなど見逃せない点は結構ある(当初言われた製造コストの優位性については、量産効果により差がなくなりつつある)。こういう技術が、ユーザが享受する前に消えていくとすれば理不尽だ。ブルーレイ陣営は(もしくは東芝がブルーレイ機器を出すことになれば)HD DVDで生み出された技術を取り込んでいく責任があろう。
 もう一つ、日本の消費者が身近さを感じられないのは、邦画やアニメ、テレビドラマなど、国産タイトルが両陣営ともきわめて少ない点であろう。NHKの大河ドラマも、2000年の「葵 徳川三代」以降、昨年の「風林火山」まで8作品がハイビジョンで制作されているにもかかわらず、ブルーレイボックスなどは出ていない。規格競争の行方を見極めてからということだろうが、街のショップに並んでいるブルーレイのハリウッド作品の数と比べると、日本のソフトベンダーはあまりに消極的だ。
 HD DVDは負けた。それは厳然たる事実だ。だが、それではブルーレイが勝ったと言い切れるのか。「ブルーレイより大容量ハードディスクに残した方が経済的」という声も依然根強い(秋葉原界隈では50GBのブルーレイディスク5枚分で500GBのHDDが買える)。ソニーも、PS3は何とか台数を捌けるようになってきたとはいうものの、ブルーレイ事業全体としてはまだ赤字の状態だ。ブルーレイ陣営の正念場は、むしろこれからだろう。