ネット投票の落とし穴

 文化庁が先頃、「日本の芸術メディア100選」なるものを発表した。1950年以降に作られた日本を代表するメディア芸術作品を、「アート」「エンターテインメント」「アニメーション」「マンガ」の4部門に分け提示し、専門家400名による回答と、webによる一般投票をもとに選ぶというものだ。
 その公表結果によると、各部門ごとのベスト5になった作品は以下の通りとなった。

アート部門
 1位=大阪万博太陽の塔
 2位=明和電機ライブパフォーマンス
 3位=明和電機「魚器シリーズ」
 4位=NHKスペシャル「驚異の小宇宙 人体2 脳と心」
 5位=明和電機「Tsukubaシリーズ」

エンターテインメント部門
 1位=やわらか戦車
 2位=ピタゴラスイッチ
 3位=スーパーマリオブラザース
 4位=ニンテンドーDS
 5位=ガンプラ

アニメーション部門
 1位=新世紀エヴァンゲリオン
 2位=風の谷のナウシカ
 3位=天空の城ラピュタ
 4位=機動戦士ガンダム
 5位=ルパン三世 カリオストロの城

マンガ部門
 1位=スラムダンク
 2位=ジョジョの奇妙な冒険
 3位=ドラゴンボール
 4位=鋼の錬金術師
 5位=ドラえもん

 以下詳細はこちらを参照のこと。→http://plaza.bunka.go.jp/hundred/index.html
 果たしてこれが本当に国の機関が選び出した結果なのだろうか。あきれるにもほどがある。すべてを否定するつもりはないが、56年間の日本のメディアの歴史の中における代表作品というには、ずれてるとしかいえないものが複数含まれていると感じるのは、私だけではあるまい。
 たとえばエンターテインメント部門1位の「やわらか戦車」。このブログでも一度取り上げたし、おもしろいものとは思うが、歴史的な作品とはとても思えない。果たして5年先に覚えている日本人が何人いるだろうか。またアート部門の上位5作品中3つを明和電機(6位にももう1点ある)が占めているというのは、どこをどうとると公正な結果といえるのだろうか。アニメ部門の宮崎作品3点というのも、納得できなくもないが、首をかしげる向きも少なくあるまい。
 全般的な投票傾向も見ても、ここ5年くらいのうちに作られた作品が上位に散見されるなど、偏りが顕著だ。
 このような結果になった原因は、ネットによる投票なたよりすぎたことが大きいだろう。ネットからこのような投票やアンケートに参加するのは、ほとんどが40歳以下の若年層であるはず。当然そこに年代的な偏りが出てくるし、いま身近に接しているものほどよく見える。それがあまりに素直に出てきてしまったのがこの結果なのだろう。
 昨年、NHKが紅白歌合戦の視聴率回復をねらって「好きうた」なるファン投票を実施したのが話題になったが、上位にスマップやモーニング娘。など10年そこそこのヒット曲ばかりが並んでしまうという、NHKの期待に反する偏った結果になり、方針転換を余儀なくされた。これも、ネットや携帯電話からといった若年層にとって身近な環境での投票が多かったことが要因だろう。
 ネットの普及により、国政選挙もネットで、という意見が少なからず出ているが、ネットに頼りすぎる世論形成が現時点でいかに危険であるかは、NHKと文化庁が端的に示してくれているのである。