県庁の星

 かつて伊丹十三監督の「スーパーの女」という映画があった。スーパーマーケットに通うのが日課の中年の主婦が、スーパーを経営している幼なじみの男の誘いがきっかけで、寂れた店を立て直していくというサクセスストーリーだ。数ある伊丹作品の中でも最高傑作の喜劇だと私は思っている。
 その最高傑作の雰囲気を漂わせつつ、まったく違う切り口で作った作品が、西谷弘初監督作となる「県庁の星」だ。(以下ネタバレあり、見たくない方はスルーしてください)
 某県が立ち上げた一大公共事業の実現に向け、民間企業との人事交流と銘打って地場の寂れたスーパーに派遣されたエリート官僚・野村(織田裕二)。その教育係に指名された“裏店長”の異名を持つパート従業員・二宮(柴咲コウ)。
 役所の仕事との勝手の違いにとまどう野村は当初、二宮ら従業員と対立。店の問題点を指摘した改善プランを作成するも、全員からそっぽを向かれ、自分のアイデアで企画した高級弁当も大失敗。そんな折、ある事件をきっかけに県の方針が変わり、野村は出世コースから外され婚約者からも離縁され、孤立のどん底に突き落とされる。一方スーパーでは、経営管理のまずさから保健所や消防署などに改善命令を突きつけられて窮地に立たされる。二宮はわらをもすがる思いで、野村が残した改善プランに目を通し、行方知れずだった野村を見つけ出し、スーパーに呼び戻す。そこから、スーパー再生のための大作戦が始まる・・・。(中略)
 やがて県庁に戻った野村は、スーパーを再生させた経験を生かして巨大公共事業の無駄を暴き、計画の改善を主張する。そして・・・。

 と、ざっとこのような内容。
 売れ残った惣菜を生かして安い弁当に流用するというネタが出てくるが、まさに「スーパーの女」からの“インスパイア”だろう。店員のユニフォームのデザインなどもだいぶ同作品を意識しているように思える。
 また、挫折して行方不明になった野村の居場所を、二宮が何の問題もなく見つけ出してしまうという設定にはどうしても無理がある。さらにその場で二宮が野村に風邪薬を渡すというのもずいぶんと用意がよすぎる。
 そんな、いくつかのつっこみどころはあるが、後半にかけてはテンポもよく、満足な作品に仕上がっていたと思う。そして、ハッピーエンドをちらつかせつつも、最後の最後、「現実は映画のようにはうまくいわけではないぞ」という作り手のメッセージが込められた締め方は、何とも心憎かった。