さらばasahiパソコン

 正直な話、びっくりした。普段通りに何気なくコンビニの雑誌コーナーで手に取ろうとした「asahiパソコン」。表紙が真っ赤。引き出してみると中央に「終了してもよろしいですか」というウインドウの絵。異様な装丁のその本を開くと「休刊」という文字が。しかも通算399号という何とも狂おしい数字での終止符。苦渋の決断だったことがよくわかる。
 いま雑誌業界では、2007年問題というのが騒がれていると聞く。団塊の世代が一斉に定年退職を迎えるのがこの時期から始まるとされているわけで、日本経済全般に及ぶ問題でもあるのだが、雑誌・出版業界にとっては一大転機になるというのだ。何となれば、駅の売店でスポーツ紙や雑誌を買って電車の中で読むというのは、これまでごくありふれた情景だったわけだが、それを支えてきたのが団塊の世代である。その人たちが定年を迎えれば、通勤電車に乗ることもなくなり、駅での販売部数も当然その分、減ることになる。

 実際、現状を見渡せば、電車の中で雑誌を読んでいる人は意外なほど少ないことに気付く。代わってありふれた情景となっているのは、ケータイ電話の画面にのめり込んでいる乗客の姿である。
 NHKの「BSマンガ夜話」などでおなじみのオタキング岡田斗志夫氏が先日あるイベントで話していたが、いまの一般家庭では、本棚がない家が増えているのだそうだ。マンガも雑誌こそ買っても、単行本にまで手を出すのはそれだけで「マニア」「オタク」になってしまうのだそうだ。
 そんな、ただでさえ売り上げが落ちている雑誌業界において、パソコンなどデジタル関連を扱う雑誌はさらに深刻だ。新製品などの情報は、メーカーから発表される前からネットにいくつもアップされ、日々更新されていく。こうしたものに興味がある消費者は当然、ネットで情報を求めていくわけで、そこに雑誌が介在する余地はほとんどない。「asahiパソコン」のような月2回発行というタームではとても追いつかないのである。
 そうした雑誌が生き残る道は、速報性のある内容ではフォローしづらい、より専門性の高い、密度のある情報を書きつづっていくくらいしか残されていない。しかし、「asahiパソコン」は駅の売店においてあるような、専門的な話までは求めない客層が相手の雑誌である。もはや時代がその存在を許していないのである。
 思えば今日のような、マニアではなく一般の人々がパソコンやデジタル家電に興味を持つようになる一助となったものの一つが「asahiパソコン」だったと思う。こうしたメディアが導き出した結果が、そのメディア自らの存在を拒否してしまうという現象に至ってしまったのは何とも皮肉な話である。