トラウマの遺産

 さて、前述の「怪獣使いと少年」の続編、「ウルトラマンメビウス」第32話「怪獣使いの遺産」。
 ちょっといつもと違うオープニング。工業地帯の空き地で、黙々と深い穴を掘り続ける青年。その姿を目にして純粋な好奇心のまま問いかける少女。「なぜ穴を掘っているの?」と。青年は、地中に埋まっている宇宙船を探しているのだという。その青年こそ、父親同然に暮らしていたメイツ星人を目の前で地域住民らに殺された少年の、少し成長した姿だった。
 青年と少女の話を遮るように、少女の母親の声が。母親は少女に言う。あの人は宇宙人だから近寄ってはいけないと。その言葉に少女は問い返す。「宇宙人だとどうして怖いの?」
 それからおそらくは20数年後(つまり今)。宇宙から怪獣を積んだ飛行物体が飛来。宇宙船から下りてきたのはメイツ星人。地球にきたのは、友好関係を結ぶためだと言うが、その前に解決しなければならない問題があるという。それはすなわち、30数年前の同胞の悲劇に対する賠償である。話し合い応じる姿勢を見せるヒビノ・ミライ。しかしそこへ駆けつけたリュウ隊員は、星人に向かっていきなり発砲、傷を負わせる。地球人は30年前と少しも変わらないと悟ったメイツ星人は、受け入れられるはずもない要求を突きつけつつ、宇宙船を遠隔操作して街を破壊し始める。
 近くに遠足に来ていた幼稚園児たちが、攻撃から避難しようとするところに負傷した星人と遭遇する。青い血を流している星人の姿を見た園児の一人が助けようとすると、引率の先生は宇宙人だからといやな顔をするが、子供は「宇宙人でもけがをしたら痛いよ」ときっぱり。そして宇宙人にハンカチを差しのべると、ほかの子供たちも次々と同じ行動をとる。それを後ろから見ていた園長先生は子供たちの態度に感心し、成人を介抱する。
 そこへミライとリュウが現れ、攻撃をやめるよう説得する。しかしメイツ星人は攻撃をやめない。攻撃を止めようとメビウスに変身するミライ。それに対して今度は怪獣ゾアムルチを繰り出す星人。なぜ執拗に攻撃するのかと問いかけるリュウ。星人は言った。30年前に殺されたのは私の父だ、と。
 その会話を聞いていた園長先生は、殺された星人と幸せに暮らしていた少年の話を打ち明ける。園長先生は、冒頭に登場した少女だったのである。少年の話に感銘を受けた少女の気持ちは、教え子たちにしっかり受け継がれていたのである。
 彼女の言葉に心揺れ動く星人。だが、地球人を信じようという気持ちが、地球人への憎しみを止められないと悩み苦しむ。そして、メビウスが怪獣を倒したことで、ようやく星人は苦しみから解き放たれ、再び宇宙へ帰って行った。

ストーリーの節々に作り手のこだわりが見え隠れする。まず冒頭、工業地帯の喧噪とさびしげなBGM。前作と全く同じである。癖のあるカメラアングルもしかり。GUYSの基地内も、実相寺昭雄調とでも言うべき、自然光だけで撮ったような暗ぼったいライティング。
 また、細かいところだが、街を破壊する宇宙船を目前にリュウ隊員がミライに対し「何をやっている。街が大変なことになっているんだぞ」という場面。前作でMATの伊吹隊長(なぜか虚無僧姿)が郷秀樹に言ったのと一字一句違わぬセリフを吐いていた。そういえば今回のメイツ星人が着ていた衣装も虚無僧ぽかった。

 結局、あの少年はその後どうなったのだろうか。エンディングでは少女(園長先生)の回想としていつの間にかいなくなったとだけ言っているが、実はその後ついに宇宙船を見つけ出し、メイツ星へ行ったのではにだろうか。そうでなければ、30年前の同胞の悲劇を、彼らが知るはずがないのである。
 果たして、この34年ぶりの続編は、当時の子供たちのトラウマを、どれだけ解消してくれたのだろうか。それとも、新たなトラウマを生み出したのだろうか。

 個人的には、隣の国の人々にも聞かせてやりたい話だと思った。