トンデモ映画上映会

 久しぶりに、池袋の映画館・新文芸坐へ行った。前に来たときはまだ建て替える前で、「新」の字が付かない文芸坐だった。オンボロな建物で、就中地下にあった第二文芸坐などは、カルト映画を見るのに絶好の雰囲気を醸し出していたものだ。今回10数年ぶりに訪れたその建物は1,2階が小ぎれいで毳毳しいパチンコホールというイマドキ風のビルで、かつての面影は全くない。
 その真新しい(といっても建って10年近くたっているのだが)建物の3階のスクリーンで行われたのは、と学会主催「トンデモ映画上映会」である。上映作品は「アマゾン無宿 世紀の大魔王」「花魁(おいらん)」「狼の紋章」の3本。いずれも、文芸坐の名にふさわしいキワモノ作品。選者はもちろん、唐沢俊一氏である。
 まず映画上映の前に、前座の落語(立川門下による古典風トンデモ落語)があった後、唐沢氏と日本のカルト映画監督の第一人者、というよりいまや売れっ子SFもの脚本家になりつつある中野貴雄氏による各作品の解説を兼ねたトーク(もちろん話の4分の3くらいが脱線モード)。2作目の「花魁」は途中まで忍耐を強いられるという話がやけに気になった。
 最初の上映作品、「アマゾン無宿〜」は、1961年制作で、主演が片岡千恵蔵、競演が新藤英太郎、久保菜穂子、江原慎一郎、佐久間良子三田佳子、梅宮辰夫など。配役だけ見ると、いったいどんな超大作かと思われそうだが、始まって3分もせずにそれが錯覚であることを確認できる。一言でいえば「面白ければ何でもあり」という以上の何者でもないという内容だ。
 日本に賭博場を開こうと世界各地からやってきた犯罪集団の野望を、片岡扮する南米帰りのハデハデなソンボレロをかぶったいかにも怪しい男がつぶしていくというのが大まかなストーリー。途中、惚れた女を助けるためにと、かの御大・片岡千恵蔵キチガイになったふりをして女が監禁されているキチガイ病院(劇中でそういっているのだから仕方がない)に潜り込むのだが、戦争に負けて行かれてしまった元日本兵やら、ロカビリーの歌手だと思いこんでいる船乗りやら、有りと有らゆるキチガイどもが踊り狂うというシーンは、もう圧巻。こんな作品、東映チャンネルでも放送できないだろうし、DVD化もまず不可能だ。
 1作目だけでかなり体力を使ったが、続いての作品は「花魁」。原作は文豪・谷崎潤一郎だが、冒頭からいきなりぼかし連続のエロ映画。しかも出てくる役者のセリフはどれも演技力の「え」の字もない大根ぶり、上映前に唐沢氏がいった「前半は耐えてください」との言葉のま間のストーリーがしばらく続く。
 ところが、主人公である花魁の女が好いた男とアメリカへ駆け落ちしようと試みるところから、事態は一変する。落ち延びようとする途中、2人は愚連隊に襲われ、男は頭を割られて命を落とし、女も膝に大きなアザができる怪我を負う。そして女は一人、アメリカに渡るためあらかじめ手はずを整えておいた外国船の荷室に忍び込むのだが、狭い空間に押し込まれている中で、膝のアザに殺された男の顔が浮かび上がり、以後、女は膝のアザに向かってたびたび話しかけるようになる。そうしてその男を慕う一方で、たどり着いたアメリカ(街の壁には英語でYOKOHAMAと書いてあったが)で出会った男どもには次々と抱かれるのだが、やってる最中に彼女の膝に男の顔が浮かび上がり、やっていた外人どもはそれを見てみんな逃げていってしまう。そしてついには、男の顔は膝のアザではなく、アソコに浮かび上がるようになり、抱こうとする外人のチンチンに噛みつく。その外人の悲鳴を聞きつけた牧師がやってきて、エクソシストよろしく悪魔払いをすることで、ついに男の怨念は消え、女はめでたく外人とやり遂げる。とまあ何ともおぞましいというか、ばかばかしいにもほどがあるというか・・・。
 もはや眠気も相まってくたびれ果てたところで見た3本目は「狼の紋章」。これは3本中唯一ソフト化されている作品で、その分前の2作品に比べればまだまとも。狼男が殺された母親によく似た女教師を守るためヤクザと戦うという内容で、主演は志垣太郎。敵役の松田優作のデビュー作という知る人ぞ知る作品でもある。ただ、濃厚な2作品を見た後のため、精根尽き果て半分以上寝てしまってほとんど見なかった(もっとも、ビデオで1度見た作品ではあるのだが)。

 しかし、外見こそきれいになった文芸坐だが、やっていることはかつてと変わらぬ、その名に恥じない濃い作品を見られたのはうれしい一夜だった。